百年法 上巻下巻 山田宗樹【ネタバレあり感想等】

百年法表紙 books

不老化処置によって、肉体の老化がなくなった日本。同時に生存制限法(百年法)も制定され、不老化処置後百年で死ななくてはならないことになる。その百年法に翻弄され、影響され生きていく人々を描く。永遠に生きることは死ぬことと同等ではないか、人の死とはなにか考えさせられる作品。

※以下作品の内容を含むのでご注意ください。

世界観

1945年アメリカとの戦争に負け、日本は帝国から共和国に生まれ変わる。そして、アメリカの技術である人間の肉体の老化をなくす技術である不老化処置(HAVI)と生存制限法(百年法)を与えられる。不労化処置の初年度適用者が100年を迎える2048年からこの物語が始まる。政治家、官僚、警察、労働者階級などそれぞれの視点で描かれる。戦後、急激な復活と成長をとげた日本だが、2048年では経済の停滞期を迎えている。

不老化処置(HAVI)

人間の不老化処置のこと。(human-antiaging-virus-inoculation)

19世紀半ば、アメリカの鳥類学者、ウイリアム・ハロ博士が、リョコウバトの中に不老化した個体が存在することを発見。それがウイルスによるものだとのちにわかり、いろんな操作により、人への感染力を獲得し、人不老化ウイルスが完成。母子感染しないことやその他の副作用など解明されていないことも多い。

生存制限法(百年法)

不老化処置を受けた国民は処置後百年を以て生存権をはじめとする基本的人権はこれを全て放棄しなければならない

HAVIによって不老不死となった人間があふれてしまうため、世代交代をさせるためにセットで制定される法律。

生存制限法は、各国で年数や適用対象が異なる。アメリカは100年、EUは50年、韓国は40年など。アメリカや日本では全国民が対象だが、中国では一部の階級の人間のみ対象など。

ファミリーリセット

家族関係を解消すること。20代で多くの人がHAVIを受けるので、見た目が若いまま変化しない。子供の成長(肉体的な)もそこでとまるため、なんとなく家族関係の維持の意味をなくしてしまう。また、街で声をかけたら自分の祖母であったなどといったことも現実におこる。この世界では、結婚も離婚も何度か繰り返すことも自然である。

IDカード グリップ

グリップは携帯端末のようなものでIDカードが埋め込まれている。これで通話をしたり、ものを購入したときの支払いをしたりできる。また、IDカードによって個人が特定される社会であり、IDカードがなければ社会生活を送れない。

ユニオン

下層労働者の生活を安定させることを目的に設立された巨大な公営組織。会員に毎月一定額の生活費が支給される。支給額は年齢、労働時間や仕事の種類によらず一定。仕事は3ヶ月ごとに転々とする。結婚は自由だが、出産は認めれていないため、退会する必要がある。また、病気や事故で労働力として使えなくなれば、退会させられる。加入者には、働く意欲さえあれば、一定レベルの生活が一生保障される。

昆虫食

世界的な食料事情の悪化から昆虫食が積極的に導入されている。タガメ、イモムシ、バッタ、カメムシなど品種改良によっておいしく食べられている。昆虫食のファストフード専門店も登場している。

印象的なところ

文をひとつひとつ区切っている

感情が高まる場面では、文章をひとつひとつ区切っている。

探す。見つけた。あの背中。駆ける。追いついた。歩を緩めた。彼女はまだ気づかない。〜

〜握りしめた。深く呼吸する。前方の背中を見つめる。瞬きもせずに見つめる。大きく吸った。駆けた。足音。振り向く。振り向いた。〜     本文中より

文を区切ることで臨場感が伝わってきて、登場人物の息づかいが聞こえてくるような迫力があった。理性的に動いているのではなく、本能のままに動いているような印象を受けた。

視点の変更

官僚、警察、労働者階級の登場人物の視点が次々に変わっていく。それぞれが百年法、HAVIに対しての思いをもっている。物語が進むと時も進んでいくため、それぞれの視点となる登場人物も変わっていく。いろんな立場の人間がどう絡んでいくのか想像するのも楽しみ方のひとつ。物語序盤のキーポイントは、百年法の施行、つまりHAVIを受けて100年経った人間を安楽死させることを実施していくかどうかである。百年法を推し進めていきたい官僚、消極的である政治家、100年法適用対象となる民間人、それぞれの思いが行動に移されていく。

感想

個人的に百年法のような架空の法律ができた世界でどうなってしまうのかというのは、好きなジャンルの一つです。特別法第001条Dust(山田悠介)や世界でたったひとりの子(アレックス・シアラー)など、世界観は全然違いますが、記憶に残っている作品です。

特別法第001条DUST表紙
世界でたったひとりの子表紙

百年法は、架空の日本共和国を舞台にした物語です。昆虫食や全自動運転の車、個人を管理するIDなど、将来現実になるかもしれないものがいっぱい登場します。現実の日本も平均寿命はどんどん伸び、車の自動運転のシステムは進化して、昆虫食は、、なかなか聞きませんが、すごく身近に感じてしまいました。あまり内容には触れませんが、混沌とした日本共和国がイメージでき、想像力を掻き立てハマりました。また、こんなジャンルの本を読んでみたいと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました